第3章 アメリカ文化の光とかげ
第3章 アメリカ文化の光とかげ
モンスター「異種」から「家族」へ
モンスターとは
西欧文化において, 人間中心の社会システムに取り込まれることを拒むものたちの総称
ダナ・ハラウェイ「猿と女とサイボーグ」
monsterの語源はdemonstrateと同根であることを指摘
猿やサイボーグや女までもが「モンスター」であると定義
人間=男性が支配する表象システムを拒絶し, みずからをみずからで指し示すものたちこそが「モンスター」である
時代を遡ってゴシック小説黎明期の「モンスター」にも当てはまるとこの章の執筆者は指摘
G・C・スピヴァック「フランケンシュタイン」のポストコロニアル的読解
シェリーは怪物に, 主人から返された眼差しを受け止めない権利ーいわば視線のアパルトヘイトを拒否する権利を与えた
モンスターとラッダイト
植民者側のテクストに書き込まれた「モンスター」たちの系譜
『キング・コング』, ゴジラ, 『重力の虹』に描かれるアフリカの黒人表象
ゴシック小説から現代SF映画に至るモンスターの系譜を, 機械文明に対抗するもの, すなわち「ラッダイト」の系譜として再定義 ラッダイト論の核
モンスター的存在は, 自然の法則が今ほど厳密ではなかった昔に実在した「奇跡の時代」の形見であるという読解
メルヴィル『白鯨』を基礎とするアメリカ文学・文化における動物表象の歴史すらもモンスターの表象史に置き換えうる可能性を示唆 ジョーズ、アリゲーターなどのモンスターパニック映画
他者のビジュアライゼーションとしての「モンスター」
現代社会に現れた新たなる家族の形態(「異種」と寄り添い生きる)こそがすでにしてモンスターのおとしご(ハラウェイ)
重要なのは, コンパニオン・スピーシーズの成り立ち
遺伝という系譜は変容するためにこそ存在を強いられるものだが, それらは混じり合いモンスターとなり, その胎内にこの「家族」ははらまれる
「人間」それ自体の存立基盤を疑い, 「人間以外」とされる存在との共生のあり方を模索すること
自らの出自を「モンスター」であると見なすこと
ジョン・ウェインー現実と幻影のカウボーイ
初めはタフ・ガイのイメージ
二極化する世界の縮図を, 19世紀アメリカの荒野という風景の中に描き出した
1960年代、馬からモーターサイクルへ, 「マカロニ・ウエスタン」の流行 カウボーイ像の逆輸入
アメリカのアイコンとしてのジョンウェイン
『駅馬車』で一躍スターに
B級時代からウェインに親しんでいた人々が支持
大戦以後のアメリカ合衆国を実質的に背負って立つ世代
彼らの価値観はそう簡単に揺らぎはしなかった
米ソの冷戦時代, 徹底して「反共」の立場を表明したウェイン
保守的な主導者たちからは歓迎, 表現者としての評価は下がる
このシンプルで頑固な政治的スタンスがアメリカの文化的アイコンたらしめてきた
アメリカと表象文化
片隅に息づくスモールタウンとその住人たちによってアメリカ合衆国は表彰される
アメリカの知性とエリート主義に背を向け, 一見したところ時代の流れに取り残されているようなウェインの生き様に「アメリカン・スピリット」を見出す
セクシャリティーアメリカ社会のクローゼット
マイノリティたちの「カミングアウト」を促す
公の場で示され認められるべきアイデンティティと主張
ある州で承認された同性間の婚姻関係を他の州や連邦が認める必要はなく, 連邦税額控除も認められないというもの
2013年, 連邦政府が州で成立した結婚を認めないことは違憲とされた 2013年では同性婚は全米の13州とワシントンDCで認められている 意識調査においても, 僅差で過半数が同性結婚について肯定的な見方
軍隊と同性愛者
セクシャリティについては「きかざる, 言わざる」となる(1993年) 「クローゼット」の法律化
2011年にはセクシャリティを根拠にした差別は禁止されている 排除された「クローゼット」
クローゼットの中を覗き込むかのように公と私が交差する閉じた空間の中にセックスを見出すことが行われている
スキャンダルとセクシュアリティ
BDSM
アメリカの主流文化の中でのファンタジーの役割, そして商品化
隠されたものである一方で魅了されているアメリカ
遊園地ー平等と解放という幻想空間
遊園地とは
大衆の余暇のための娯楽施設
テーマパークも含まれる
テーマパークは一貫した特定のコンセプトに基づいて構築した娯楽空間
遊園地の起源
ヨーロッパの伝統的なカーニバルや祝祭が公共的に娯楽を提供する空間へと発展を遂げたと考えられている
コンサートや舞踏会のための庭園が遊園地の祖であるのではないか?
アメリカ合衆国の遊園地の歴史に大きな影響を与えたのは1893年の世界博覧会 シカゴ万博
アメリカの技術的・文化的達成を誇示するために博覧会が開催
ジムクロウ制度が確立, 急速な工業化で巨大企業が台頭した時期
大量の移民到来によってアメリカの人口構成も都市景観も大きく変化
エリート層は社会の変化に危機感を覚え, 万博によって理想的な都市のあるべき姿を示そうとした
都市の労働者は, 共同体から解放され, 個人の時間を自ら管理するように
最低賃金と労働時間の規定によって, 余暇を持てるようになった大衆が刺激的な娯楽を求める
J・F・キャソンによるとシカゴ万博の目的は「ホワイトシティ」を国内外に知らしめることにあった
統一と調和に満ちた整然たる理想的都市計画
ただし大衆にはミッドウェイ遊園地が絶大な人気
商業的な娯楽空間, 猥雑なパノラマ
解放と制御のメカニズム
シカゴ万博から程なく, 大衆を魅了する行楽地が隆盛
電車などの交通機関の発達による
来訪者を陳腐な日常と都市の共生的労働環境から解放, 快楽と幻想空間へと誘う舞台装置
洗練された芸術様式とはかけ離れた世俗的快楽であったため, 不道徳を助長すると批判
逆に, カーニバル的気質が「自由と平等」的民主主義精神の反映であるとみなされ, 新移民をアメリカ社会へ同化させる文化的手段であるとも考えられた
当初は階級区分や伝統規範に対抗する文化の前線として, 労働者の能動的な自由を生成する場として考えられた遊園地
実際には, 企画化され, 仕組まれた楽しみを甘受するだけの順応型の大衆を生み出してしまった
労働者の解放と平等ではなく, 既存の社会階層と労働体制を維持するための画一的な安全弁に
労働者の生活の苦しさを癒すための即物的な幻想体験が労働効率をあげ, ガス抜きとしての役割をはたす=労働の延長となってしまう
仕事の機械化と娯楽の規格化は解放と隷属のメカニズムによって抱き合わせで提示
遊園地の衰退
自動車の発展によって余暇の範囲が広がったこと
1955年, ディズニーランドの誕生でテーマパークが隆盛 中流階級的な健全さ
19世紀末の猥雑さはなく, アメリカ型娯楽の典型に フェミニズムー複雑化する争点
アメリカのフェミニズム
女性たちを「妻」「母」という役割に押し留めようとする力の強まり
ベティ・フリーダン『女性らしさの神話』(1963) 倦怠感, 閉塞感, 神経症や依存症に苦しむミドルクラスの主婦たち
1966年, 全国女性組織が設立, 女性解放運動がアメリカ全土に広がる 公的な場面での性差別の撤廃を目指すデモ, 女性たち自身の「Consciousness Raising」
女性たちが自らの個人的な経験の中に性差別や家父長制という社会問題を見出していくこと
女性である自らの身体や性についての知識を深めること
一方で, 女性たちの間に亀裂を生むことも
何もわかっていない無自覚な女性というレッテルのもとに一方的に批判されたり否定され, 居場所を見いだせない女性
1960年代以降の争点の一つ, Equal Rights Amendment 実現に至らなかった
フェミニストの間に相違が見られたことに原因の一つがある
女と男は違うのか, それとも同じなのかという点での対立
エコロジカル・フェミニズム
抑圧されてきた女性の体や価値, 母性を積極的に肯定しようとする立場
リベラル・フェミニズム
性差を重視せず同等の権利を要求する
フェミニズムは誰のものか
当然のことながら, 女であるからといって皆同じ立場をとるわけではない
「女」の多様性
フェミニストを代表してきたのは, 一般的に白人の, 中産階級の, キリスト教徒の, 異性愛の女性たちである
人種やエスニシティ, 階級, 宗教, セクシュアリティなどのためにフェミニズムから排除される女たちの存在
ブラック・フェミニズム, ポストコロニアル・フェミニズム
性差別が人種差別や帝国主義と結びついていることを指摘
レズビアン・フェミニズム
異性愛主義を前提とするフェミニズムの欺瞞を暴く
男による女の抑圧だけでなく, 女による女の抑圧も深刻な問題
ポストフェミニズムの時代
教育や就労の分野での目覚ましい進歩にもかかわらず, アメリカ社会から性差別が消えたわけではない
グローバル化によるアメリカ国内の移民問題や格差の拡大, 技術革新, 環境問題などの社会全体の争点が複雑化する中女性たちのための運動を繰り広げる「第三波フェミニズム」 1990年代以降のRiot Grrrlムーブメント, 雑誌など 「もう波はいらない, movementが必要だ」と叫ぶ若いフェミニストも
ポルノグラフィー表現の政治, 身体の政治
セックス文化
セックスを取り巻く言説は大量生産され流通する商品
個々の男女のアイデンティティとの深い結びつき
ポルノグラフィ
政府による規制と表現の自由の対立という問題
反ポルノ運動
性差別の一形態とみなされるポルノグラフィ
女性の身体のモノ化, 商品化, 従属化する暴力であると捉える
男性支配の正当化, 女性に沈黙と服従を強いるもの
アンドレア・ドウォーキンやキャサリン・マッキノンなど
反ポルノ運動への反論
ポルノグラフィの生産や消費に関わっている女性への蔑視
保守派の政治にフェミニズムが飲み込まれてしまうことへの危惧
他の性差別問題の軽視, 女性をセックスから遠ざけること(おそらく, 本人の意思に反して?)
女性とポルノグラフィ
性に肯定的なフェミニストの中には, 女性のためのポルノ雑誌やグッズの生産・流通に十時する女性も
パット・カリフィア
女性のためのポルノグラフィのクリエイター
「性的マイノリティ」にとっては, 自身の性について情報を集めることは難しい
正しい情報を得ること, そもそも自らのことが描かれたものを見ることができることが大切
これらの機会を奪うこと, LGBTだけでなく異常とされる性愛を楽しむ女性を抑圧し, フェミニストの中から排除することは性差別の是正に繋がらない
「私的に楽しむもの」の政治
「私的に楽しむもの」は極めて政治的である
現在のポルノグラフィの問題
現存するポルノグラフィのほとんどは男性中心主義的であり, 主体が男性であり客体が女性であるという二元論
携わる女性の労働条件が望ましいものではなく, 社会的にも差別されていること
一方で, 女性が主体として性を楽しむため, あるいはマイノリティを周縁に押し止めないための効果の期待
サイバー・ポルノグラフィの問題
1996年, Communications Decency Act アメリカ政府による規制の試み
違憲判決が下された
規制すべきか否か, そもそも規制が可能なのか, 議論が続く
アメリカン・ホラー
アメリカン・ホラー映画とゴシックの伝統
八木敏雄「アメリカン・ゴシックの水脈」
アメリカ人の歴史的・宗教的な罪の意識が観るものの内面に再浮上する構図がアメリカ的「恐怖」の源泉
アメリカ人の罪の意識
先住民排斥, 奴隷制の時代に遡る
ポーの「黒猫」やメルヴィル「白鯨」
共通点は, 動物による人間への復讐
アメリカ人の原生自然に対する罪の意識
「ジョーズ」は自然環境を浪費する観光産業とその背後のアメリカ型消費主義を批判する構図を有する
「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」
自然からの復讐という構図が受け継がれる